再び、NHKの番組関連のこと(2006/1/7 NHKスペシャル~第一夜 がん医療を問う~、2006/1/8 第二夜 がんの苦痛は取り除ける)を書きます。
あの番組については、イロイロと勝手な批評をしてしまいましたが、
一つだけ、賛同できることがありました。
それは、緩和医療に関してです。
緩和医療
緩和医療とは、ガンの存在に伴う苦痛を取り除き患者さんの生活を楽にさせてあげること。すなわちQOLの向上を目指した治療です。
確かに、現在の日本のガン医療の現場では、番組で訴えていたように、
ガンそのものに対する抗ガン治療と、そのガンにより発生する苦痛に対する緩和治療とは、切り離されている場合が多々見られます。
すなわちホスピスなどに入り、十分な緩和治療を受けようとした場合、
現在の日本の保険制度からは、積極的な抗ガン治療は受けられません。
確かに、抗癌剤治療専門医の中には、痛みに耐え切れなくなったような患者さんは、
自分たちの治療の対象外であり、更なる抗ガン治療は行なわず、
緩和医療だけを進める医者もいるようですが、
これは、大きな間違いだと考えます。
本来、残念ながら目を瞑る時まで、徐痛などの緩和治療と積極的な抗ガン治療は、
同時に平行して続けられるべきものだと考えます。
少なくとも私自身はその様な方針で治療を行なっています。
勿論、大きな苦痛を訴えるほど全身状態の弱った患者さんに、
大量の抗癌剤を使う標準的な抗癌剤治療など、出来ようはずがありません。
寿命を縮めてしまいます。
薬剤量は十分に検討しなければなりません。
もっとも、私の治療方針は、大量の抗癌剤を使う標準的な抗癌剤治療は行わず、
極少量の抗癌剤を使って、ガンの縮小効果は期待せず、QOLを維持した上で延命効果だけを求め、辛い思いをすることなく長生きすることだけを追及する考え方の治療ですから、苦痛を訴えている患者さんにも問題なく遂行できます。
緩和治療は平行して行えます。
緩和医療の専門医から見れば、不十分かも知れませんが、私の知っている一般病院では、最期まで、抗ガン治療を行いながら、徐痛・緩和治療も平行して行なわれています。
NHKの番組では、癌研病院では、「モルヒネだけではなく、このような薬剤(鎮痛補助薬)も使っている」と、誇らしげに(?)画面に出されていましたが、
あの程度の薬剤は、緩和医療には素人の私でも使っています。
癌研病院の緩和ケア病棟だけの専売特許ではありません・・・・
勿論、緩和治療専門医が、抗ガン治療の専門家と二人三脚で行なえれば、それに越したことはありません。
しかし、日本の現状ではなかなか難しい面もあります。
そこで、患者さんの自衛策としては、
痛い・重い・痺れる・辛いなどの、何か訴えがあれば、遠慮なく主治医に話して、その対策を取ってもらう。
もし、その主治医が、それが出来ないのであれば、然るべき医者・病院を紹介してもらう。
病院が二つになれば、それだけ煩わしさは増えますが、日本の医療の現状を考えると仕方がない妥協点だと思います。
多少の煩わしさは我慢して頂いて、
痛みに対しても、ガンそのものに対しても最善の治療を受けて下さい。
日本古来の武士道の名残でしょうが、
「痛みを我慢することは、日本人の美徳」のようにも思われがちです。
しかし、苦痛を感じ続けることは、ガンという病気の進行にも、悪影響を与えます。
かつては、「モルヒネは体力を消耗して、死期を早める」などと間違った認識がもたれていましたが、その様なことはありません。
痛みを我慢する方が、余程ガンを進行させてしまいます。
ところで、例のNHKの番組の中で、NHKご推奨の某がんセンターの、徐痛率が大学病院や他の一般病院と比較して、ずば抜けて良いような、スライドを提示していましたが、
本当でしょうか。
どれだけ痛みが軽減されたかを示す徐痛率ですから、その数字を出すには患者さんへのアンケート以外には、方法はありません。
ところで、一般的に、ガンは相当に進行しなければ痛みは発生してきません。
某がんセンターの患者さんは、ガンによる痛みを感じているのでしょうか?
ヘンなことを言うな?
と思われることでしょう。
どういうことでしょうか。
パフォーマンス ステータス
Performance Status
全てのガン患者さんの全身状態を表す万国共通の指標があります。
パフォーマンス ステータス(Performance Status)(PS)といいます。
それを下に示します。

全てのガン患者さんは、このPS 0 ~ 4に振り分けれられます。
現在の標準的な抗癌剤治療は、ほぼ全て、PS 0~1。 すなわち、手術不能のガンを背負っていても殆んど自覚症状は無く、ほぼ正常に日常生活を送れる患者さんを対象に、治療が行なわれるように推奨されています。
それは、「抗癌剤治療を遂行するための唯一のよりどころであるエビデンス」を出すための治験という、治療効果を確認するために行われる実験治療において、
殆んど、そのPS 0~1の患者さんが対症であったからです。
自らの身を挺してエビデンスを出してくれた患者さんたちは、皆さんPS 0 ~1 の元気な患者さんたちだったのです。
従って、それ以上に全身状態が悪い患者さんの場合、その標準的な抗癌剤治療を行なってしまったならば、そのエビデンスどおりの結果が出る保障が無いのです。
すなわち、かつての抗癌剤治療がそうであったように、その標準的抗癌剤治療により寿命を縮めてしまう可能性も出てくるからです。
そして、某がんセンターでは、忠実にその規定に従っています。
すなわち、耐え難い痛みを伴うほどガンが進行している患者さんは、その病院には多くはいないはずなのです。
治療開始の時期には、全身状態は良くても、ガンが進行して、それに伴い全身状態も悪化してゆき、PS 2以上PS 3~4になってしまい、標準的抗癌剤治療の基準外と判断されると、多くの場合、冷徹に転院を薦められます。
あるいは、緩和医療だけを薦められます。
従って、この病院の場合、余り激しい痛みを感じている患者さんは、それ程多くないはずです。
一方、一般病院では、そのような理不尽で、非人道的な事は出来ませんから、強い痛みを感じている患者さんも、その病院よりは遥かにたくさん治療しています。
某がんセンターなどで、標準的な抗癌剤治療をしてもらえる患者さんの多くは、痛みも無く、普通の生活が出来る、いわばエリートのガン患者さんです。
逆に、一般病院では、その病院で相手にしてもらえなくなった患者さんも診ていますから、徐痛率が低くなるのは当然です。
あのスライドだけを見せられたならば、某がんセンターは、ガンで苦しむ患者さんに対して、素晴らしい疼痛対策を施していて、
他の一般病院は、患者さんの痛みに対して無関心のように、思わされてしまいますが、
事実は大きく違うのでないかと想像されます。
某がんセンターから距離的に近い、国立のT病院の医師から聞いた話ですが、
そのがんセンターでは、「患者さんが糖尿病や心臓病などの合併症を持っている、という理由だけで、抗癌剤治療は一切行なわず、一般内科のいるウチの病院に何でもかんでも紹介してくる。」とのことです。
合併症があると、エビデンスを得た治験の時の条件と違ってしまうためであろうと、推測されます。
邪推でしょうか?
治験に参加しエビデンスのデータになっているガン患者さんは、殆んどの場合、合併症はない健康な(?)、PS 0 ~ 1の患者さんが選ばれます。
従って、エビデンスのデータからそれる可能性のある患者さんは、排除されます。
しかし、そのがんセンターは、「日本の、日本人のガン治療の統計を取ってゆく」ことこそが、極めて大きな指名とされる病院ですから、それに対して文句を言う方が間違いです。
患者さんは、「日本のガン治療に対するデータ収集」という非常に大きな使命を背負った病院なのだ、そして自分もその貴重なデータの一つの数字になるのだ、と言うことをしっかり理解した上で、その病院にかからなければなりません。
以上 文責 梅澤 充
あの番組については、イロイロと勝手な批評をしてしまいましたが、
一つだけ、賛同できることがありました。
それは、緩和医療に関してです。
緩和医療
緩和医療とは、ガンの存在に伴う苦痛を取り除き患者さんの生活を楽にさせてあげること。すなわちQOLの向上を目指した治療です。
確かに、現在の日本のガン医療の現場では、番組で訴えていたように、
ガンそのものに対する抗ガン治療と、そのガンにより発生する苦痛に対する緩和治療とは、切り離されている場合が多々見られます。
すなわちホスピスなどに入り、十分な緩和治療を受けようとした場合、
現在の日本の保険制度からは、積極的な抗ガン治療は受けられません。
確かに、抗癌剤治療専門医の中には、痛みに耐え切れなくなったような患者さんは、
自分たちの治療の対象外であり、更なる抗ガン治療は行なわず、
緩和医療だけを進める医者もいるようですが、
これは、大きな間違いだと考えます。
本来、残念ながら目を瞑る時まで、徐痛などの緩和治療と積極的な抗ガン治療は、
同時に平行して続けられるべきものだと考えます。
少なくとも私自身はその様な方針で治療を行なっています。
勿論、大きな苦痛を訴えるほど全身状態の弱った患者さんに、
大量の抗癌剤を使う標準的な抗癌剤治療など、出来ようはずがありません。
寿命を縮めてしまいます。
薬剤量は十分に検討しなければなりません。
もっとも、私の治療方針は、大量の抗癌剤を使う標準的な抗癌剤治療は行わず、
極少量の抗癌剤を使って、ガンの縮小効果は期待せず、QOLを維持した上で延命効果だけを求め、辛い思いをすることなく長生きすることだけを追及する考え方の治療ですから、苦痛を訴えている患者さんにも問題なく遂行できます。
緩和治療は平行して行えます。
緩和医療の専門医から見れば、不十分かも知れませんが、私の知っている一般病院では、最期まで、抗ガン治療を行いながら、徐痛・緩和治療も平行して行なわれています。
NHKの番組では、癌研病院では、「モルヒネだけではなく、このような薬剤(鎮痛補助薬)も使っている」と、誇らしげに(?)画面に出されていましたが、
あの程度の薬剤は、緩和医療には素人の私でも使っています。
癌研病院の緩和ケア病棟だけの専売特許ではありません・・・・
勿論、緩和治療専門医が、抗ガン治療の専門家と二人三脚で行なえれば、それに越したことはありません。
しかし、日本の現状ではなかなか難しい面もあります。
そこで、患者さんの自衛策としては、
痛い・重い・痺れる・辛いなどの、何か訴えがあれば、遠慮なく主治医に話して、その対策を取ってもらう。
もし、その主治医が、それが出来ないのであれば、然るべき医者・病院を紹介してもらう。
病院が二つになれば、それだけ煩わしさは増えますが、日本の医療の現状を考えると仕方がない妥協点だと思います。
多少の煩わしさは我慢して頂いて、
痛みに対しても、ガンそのものに対しても最善の治療を受けて下さい。
日本古来の武士道の名残でしょうが、
「痛みを我慢することは、日本人の美徳」のようにも思われがちです。
しかし、苦痛を感じ続けることは、ガンという病気の進行にも、悪影響を与えます。
かつては、「モルヒネは体力を消耗して、死期を早める」などと間違った認識がもたれていましたが、その様なことはありません。
痛みを我慢する方が、余程ガンを進行させてしまいます。
ところで、例のNHKの番組の中で、NHKご推奨の某がんセンターの、徐痛率が大学病院や他の一般病院と比較して、ずば抜けて良いような、スライドを提示していましたが、
本当でしょうか。
どれだけ痛みが軽減されたかを示す徐痛率ですから、その数字を出すには患者さんへのアンケート以外には、方法はありません。
ところで、一般的に、ガンは相当に進行しなければ痛みは発生してきません。
某がんセンターの患者さんは、ガンによる痛みを感じているのでしょうか?
ヘンなことを言うな?
と思われることでしょう。
どういうことでしょうか。
パフォーマンス ステータス
Performance Status
全てのガン患者さんの全身状態を表す万国共通の指標があります。
パフォーマンス ステータス(Performance Status)(PS)といいます。
それを下に示します。

全てのガン患者さんは、このPS 0 ~ 4に振り分けれられます。
現在の標準的な抗癌剤治療は、ほぼ全て、PS 0~1。 すなわち、手術不能のガンを背負っていても殆んど自覚症状は無く、ほぼ正常に日常生活を送れる患者さんを対象に、治療が行なわれるように推奨されています。
それは、「抗癌剤治療を遂行するための唯一のよりどころであるエビデンス」を出すための治験という、治療効果を確認するために行われる実験治療において、
殆んど、そのPS 0~1の患者さんが対症であったからです。
自らの身を挺してエビデンスを出してくれた患者さんたちは、皆さんPS 0 ~1 の元気な患者さんたちだったのです。
従って、それ以上に全身状態が悪い患者さんの場合、その標準的な抗癌剤治療を行なってしまったならば、そのエビデンスどおりの結果が出る保障が無いのです。
すなわち、かつての抗癌剤治療がそうであったように、その標準的抗癌剤治療により寿命を縮めてしまう可能性も出てくるからです。
そして、某がんセンターでは、忠実にその規定に従っています。
すなわち、耐え難い痛みを伴うほどガンが進行している患者さんは、その病院には多くはいないはずなのです。
治療開始の時期には、全身状態は良くても、ガンが進行して、それに伴い全身状態も悪化してゆき、PS 2以上PS 3~4になってしまい、標準的抗癌剤治療の基準外と判断されると、多くの場合、冷徹に転院を薦められます。
あるいは、緩和医療だけを薦められます。
従って、この病院の場合、余り激しい痛みを感じている患者さんは、それ程多くないはずです。
一方、一般病院では、そのような理不尽で、非人道的な事は出来ませんから、強い痛みを感じている患者さんも、その病院よりは遥かにたくさん治療しています。
某がんセンターなどで、標準的な抗癌剤治療をしてもらえる患者さんの多くは、痛みも無く、普通の生活が出来る、いわばエリートのガン患者さんです。
逆に、一般病院では、その病院で相手にしてもらえなくなった患者さんも診ていますから、徐痛率が低くなるのは当然です。
あのスライドだけを見せられたならば、某がんセンターは、ガンで苦しむ患者さんに対して、素晴らしい疼痛対策を施していて、
他の一般病院は、患者さんの痛みに対して無関心のように、思わされてしまいますが、
事実は大きく違うのでないかと想像されます。
某がんセンターから距離的に近い、国立のT病院の医師から聞いた話ですが、
そのがんセンターでは、「患者さんが糖尿病や心臓病などの合併症を持っている、という理由だけで、抗癌剤治療は一切行なわず、一般内科のいるウチの病院に何でもかんでも紹介してくる。」とのことです。
合併症があると、エビデンスを得た治験の時の条件と違ってしまうためであろうと、推測されます。
邪推でしょうか?
治験に参加しエビデンスのデータになっているガン患者さんは、殆んどの場合、合併症はない健康な(?)、PS 0 ~ 1の患者さんが選ばれます。
従って、エビデンスのデータからそれる可能性のある患者さんは、排除されます。
しかし、そのがんセンターは、「日本の、日本人のガン治療の統計を取ってゆく」ことこそが、極めて大きな指名とされる病院ですから、それに対して文句を言う方が間違いです。
患者さんは、「日本のガン治療に対するデータ収集」という非常に大きな使命を背負った病院なのだ、そして自分もその貴重なデータの一つの数字になるのだ、と言うことをしっかり理解した上で、その病院にかからなければなりません。
以上 文責 梅澤 充