本日も、一昨日(2006年1月21日)に続いて、日常診療の際によく出会う、患者さんの誤解について書きます。
素朴な疑問ですので、バカバカしいと思われる方は、飛ばして下さい。
現在の日本で、インフォームドコンセントが成立しないのは、
故意なのか、仕方なくなのかは判りませんが、医者の説明不足が最大の原因ではあると思います。
しかし、患者さん側の、ガンという病気に対する知識不足、誤解も大きな要因だと思います。
日本の医療現場の現状を考えると、余りにも、初歩的な疑問に対し、全て丁寧に解説している時間が取れないと言うことも事実です。
これを、医者の責任にすることは、少々酷だと思います。

ガンが“怖い病気”と言われる理由は幾つかありますが、
その一つは、手術で全部取れたと思えても、その後何ヶ月あるいは何年か後に、体の違う場所(場合によっては同じ場所)に転移・再発を起こす可能性があり、その場合手術では取ることが出来ないことが多いので、怖い病気と言われるのです。
例えば、乳ガンが一番転移・再発をきたし易い臓器は肺です。
手術後何年か経過し「乳ガンが治ったと思ったら、今度は肺ガンが出来ちゃったんです。」と言って、私のもとに来られる患者さんを時々見かけます。
しかし、それは肺から、肺の細胞から発生したガンではなく、乳ガン細胞が、手術前でまだお乳にガン細胞のカタマリがあった時に、その“ガン細胞のカタマリ”(シコリ)の近くの血管をガンが侵食し、その血管を流れている血液の中にガン細胞が侵入し、それが血液の流れに乗り肺に運ばれて行き、そこで根付いてしまったものです。
(勿論本当に肺ガンの場合も稀にはあります。その場合は重複ガンと言います。)
しかし、2006年1月10日の「抗癌剤治療は有効に効いても長生きできない!?」でも書いたとおり、ガン細胞一個の大きさはおよそ10ミクロンという、1ミリメートルの百分の一の大きさですから、全く気付かれることがなかったのです。
それが一個だったものが2個になり4個になり8個、16個、32個、64個、と倍倍に増殖をしてゆき、およそ10億個になった時点で1立方センチメートル(1センチ四方の立方体)の大きさになり、CTやレントゲン検査などではじめて発見されることになるのです。
患者さんから見ると、手術直後には何もなかったものが、手術後数ヶ月あるいは数年経ったある日突然発見される訳ですから、ガンのカタマリが新たに出てきた様に思われるかもしれませんが、
それは発見されなかった、「“機械の目”では見えなかった」だけのことで、実は手術前から存在していたのです。
ですから、その細胞は肺ガンの性質ではなく、乳ガンとしての性格を持つため、乳ガンとして治療をしてゆくことになるわけです。
患者さんから見ると、乳ガンも肺ガンも胃ガンもすい臓ガンも甲状腺ガンも、みな同じ「ガン」として、一まとめにされてしまいますが、それぞれのガンで性質も治療方法も大きく変わります。ガンの種類により予後も全く違います。
次に、転移・再発に関する、同種の誤解について書きます。


「肺に再発したけど、早期ガンで手術をしたから、大丈夫ですよね。」という様なことを、言われる患者さんもおられます。
しかし、早期ガン、進行ガンという分類は手術前あるいは手術直後の状態を表し、その時の“病期の分類”(一般にステージ★4ⅠからⅣ)で、どのステージ(病期)で手術を行ったかにより将来再発する確率が違っていて、その手術を行った患者さんの今後の経過の予想を立てるものです。そして再発の確率が高いと予想される患者さんには、その再発を予防するための補助抗癌剤治療が行われたりします。
★ 4、ステージとは、手術前のガンの進行程度を表す分類です。一般的に進行程度によりⅠからⅣに分類されます。数字が小さいほど早い段階のガンということになります。
ステージが早ければ、すなわち、手術時のガンの進行が高度でなければ、それだけ手術後の再発の確立が少ないことが予測されます。
しかし、たとえ手術時にステージⅠの早期ガンであっても再発する患者さんもいれば、
ステージⅢ・Ⅳのかなり進行したガンであっても再発しない患者さんもいます。
手術時のステージが何であれ、再発をきたしたのであれば、ステージに関係なく、「再発に対する治療」をしなければなりません。
また、「肺の転移は、小さいし、一つだけだから、心配ないですよね。」と言われる患者さんもいます。
しかし、残念ながら、転移・再発病巣が一つだから安心などということもありません。
勿論はじめから沢山の転移・再発が見つかるよりはマシですが、一つでも再発病巣が発見されたならば、それは表に表したとおり、血液の中にガン細胞が侵入したことを意味しますから、多くの場合それはもはや全身疾患と考えなければなりません。
残念ながら、ガンが、手術した場所以外の身体の何処かに再発を来たした時、多くの場合そのガンは治りません。
しかし、それは、すぐに生命の危機につながるという意味ではありません。
ガンが再発した時、多くの場合、「手術が出来ない」というより「手術は無駄な場合が多い」と言う意味です。
「手術が出来ない」「手術で取り除くことが出来ない」のであれば、そのガンと同居して、平穏な日々を送ることを考えるという選択肢もあります。(2006年1月20日「ガンの増殖・増大」記載)
転移・再発とは、はじめの手術前に、既に血液の中に小さな小さなガン細胞が入り込んでしまっていることを意味します。
手術後のある時、たまたまレントゲンなどの機械の目で発見されるまでに増殖を来たしたのが、本当に一箇所だけの場合も有り得ます。もしそうであれば、根治手術も可能です。
しかし、一般的には、ガン細胞が一つだけ血液に乗ってそこに飛んでいったとは考えられません。
殆ど場合、無数のガン細胞が体中のあちこちに飛び散らかっている状態なのです。
現在、血管の中を流れる「血液中のガン細胞を検出する検査」が、何処の病院でも、ある検査会社に委託することにより簡単に出来るほど実用化されていますが(健康保険では出来ません)、その検査では、たった5 ml の血液の中に、一個だけではなく、何個、何十個も発見されます。人間の血液は、日本人で概ね4000~5000 ml ありますから、理論上はその1000倍近くのガン細胞が、体中を駆け巡っていることになります。
実際には、患者さんの免疫力や、ガン細胞が上手く他の臓器に根付く(生着する)能力などの関係で、流れているガン細胞の0.1~1%程度しか、あるいはそれ以下しか、転移・再発は成立しないと考えられています。
しかし、一個だけ生着するとは非常に考えにくいことは事実です。
従って、例えば肺に一個だけ転移・再発が発見されても、その影には、無数の再発予備軍が、いまだ見えない状態で隠されていると考えなければなりません。
それは、はじめに発見された肺だけではなく、全身のいたるところに可能性があります。
汚い例えですが、「ゴキブリを一匹発見したら、その家の何処かに何十匹も潜んでいる」と考えなければならない。と言うのと同じです。
だから、痛い思いをして、大切な身体にダメージを与えて、手術という方法で、ゴキブリを一匹捕まえて殺しても、必ず潜んでいる仲間が次々と登場すると考えなければならないのです。
さらにそのダメージが引き金になって、大量のゴキブリの発生を見ることもあります。
但し、現在大腸ガンの肺転移などでは、その転移ガンが簡単に切除できる状態であれば、手術を行って切除し、その後再び出てきたら切除を繰り返す方が、手術をしないよりは長生きできるというデータも出てきています。
これは、身体に負担の少ない内視鏡を用いた手術法の普及によるところも大きいと思います。
また大腸ガンの肝臓転移に対しても、手術を行なった方が得な症例、逆に手術はしないほうが長生きできる症例が、分析されはじめています。
医学は常に進歩しています。昨年まで正しかったことが、今は間違いであるということも珍しくはありません。
ガンという病気に対して、可能な限りの最新の情報を仕入れて、
誤解を解いて、正しく理解されて、
ご自身の病気に対する最善の対策を考えて下さい。
以上 文責 梅澤 充
素朴な疑問ですので、バカバカしいと思われる方は、飛ばして下さい。
現在の日本で、インフォームドコンセントが成立しないのは、
故意なのか、仕方なくなのかは判りませんが、医者の説明不足が最大の原因ではあると思います。
しかし、患者さん側の、ガンという病気に対する知識不足、誤解も大きな要因だと思います。
日本の医療現場の現状を考えると、余りにも、初歩的な疑問に対し、全て丁寧に解説している時間が取れないと言うことも事実です。
これを、医者の責任にすることは、少々酷だと思います。

ガンが“怖い病気”と言われる理由は幾つかありますが、
その一つは、手術で全部取れたと思えても、その後何ヶ月あるいは何年か後に、体の違う場所(場合によっては同じ場所)に転移・再発を起こす可能性があり、その場合手術では取ることが出来ないことが多いので、怖い病気と言われるのです。
例えば、乳ガンが一番転移・再発をきたし易い臓器は肺です。
手術後何年か経過し「乳ガンが治ったと思ったら、今度は肺ガンが出来ちゃったんです。」と言って、私のもとに来られる患者さんを時々見かけます。
しかし、それは肺から、肺の細胞から発生したガンではなく、乳ガン細胞が、手術前でまだお乳にガン細胞のカタマリがあった時に、その“ガン細胞のカタマリ”(シコリ)の近くの血管をガンが侵食し、その血管を流れている血液の中にガン細胞が侵入し、それが血液の流れに乗り肺に運ばれて行き、そこで根付いてしまったものです。
(勿論本当に肺ガンの場合も稀にはあります。その場合は重複ガンと言います。)
しかし、2006年1月10日の「抗癌剤治療は有効に効いても長生きできない!?」でも書いたとおり、ガン細胞一個の大きさはおよそ10ミクロンという、1ミリメートルの百分の一の大きさですから、全く気付かれることがなかったのです。
それが一個だったものが2個になり4個になり8個、16個、32個、64個、と倍倍に増殖をしてゆき、およそ10億個になった時点で1立方センチメートル(1センチ四方の立方体)の大きさになり、CTやレントゲン検査などではじめて発見されることになるのです。
患者さんから見ると、手術直後には何もなかったものが、手術後数ヶ月あるいは数年経ったある日突然発見される訳ですから、ガンのカタマリが新たに出てきた様に思われるかもしれませんが、
それは発見されなかった、「“機械の目”では見えなかった」だけのことで、実は手術前から存在していたのです。
ですから、その細胞は肺ガンの性質ではなく、乳ガンとしての性格を持つため、乳ガンとして治療をしてゆくことになるわけです。
患者さんから見ると、乳ガンも肺ガンも胃ガンもすい臓ガンも甲状腺ガンも、みな同じ「ガン」として、一まとめにされてしまいますが、それぞれのガンで性質も治療方法も大きく変わります。ガンの種類により予後も全く違います。
次に、転移・再発に関する、同種の誤解について書きます。


「肺に再発したけど、早期ガンで手術をしたから、大丈夫ですよね。」という様なことを、言われる患者さんもおられます。
しかし、早期ガン、進行ガンという分類は手術前あるいは手術直後の状態を表し、その時の“病期の分類”(一般にステージ★4ⅠからⅣ)で、どのステージ(病期)で手術を行ったかにより将来再発する確率が違っていて、その手術を行った患者さんの今後の経過の予想を立てるものです。そして再発の確率が高いと予想される患者さんには、その再発を予防するための補助抗癌剤治療が行われたりします。
★ 4、ステージとは、手術前のガンの進行程度を表す分類です。一般的に進行程度によりⅠからⅣに分類されます。数字が小さいほど早い段階のガンということになります。
ステージが早ければ、すなわち、手術時のガンの進行が高度でなければ、それだけ手術後の再発の確立が少ないことが予測されます。
しかし、たとえ手術時にステージⅠの早期ガンであっても再発する患者さんもいれば、
ステージⅢ・Ⅳのかなり進行したガンであっても再発しない患者さんもいます。
手術時のステージが何であれ、再発をきたしたのであれば、ステージに関係なく、「再発に対する治療」をしなければなりません。
また、「肺の転移は、小さいし、一つだけだから、心配ないですよね。」と言われる患者さんもいます。
しかし、残念ながら、転移・再発病巣が一つだから安心などということもありません。
勿論はじめから沢山の転移・再発が見つかるよりはマシですが、一つでも再発病巣が発見されたならば、それは表に表したとおり、血液の中にガン細胞が侵入したことを意味しますから、多くの場合それはもはや全身疾患と考えなければなりません。
残念ながら、ガンが、手術した場所以外の身体の何処かに再発を来たした時、多くの場合そのガンは治りません。
しかし、それは、すぐに生命の危機につながるという意味ではありません。
ガンが再発した時、多くの場合、「手術が出来ない」というより「手術は無駄な場合が多い」と言う意味です。
「手術が出来ない」「手術で取り除くことが出来ない」のであれば、そのガンと同居して、平穏な日々を送ることを考えるという選択肢もあります。(2006年1月20日「ガンの増殖・増大」記載)
転移・再発とは、はじめの手術前に、既に血液の中に小さな小さなガン細胞が入り込んでしまっていることを意味します。
手術後のある時、たまたまレントゲンなどの機械の目で発見されるまでに増殖を来たしたのが、本当に一箇所だけの場合も有り得ます。もしそうであれば、根治手術も可能です。
しかし、一般的には、ガン細胞が一つだけ血液に乗ってそこに飛んでいったとは考えられません。
殆ど場合、無数のガン細胞が体中のあちこちに飛び散らかっている状態なのです。
現在、血管の中を流れる「血液中のガン細胞を検出する検査」が、何処の病院でも、ある検査会社に委託することにより簡単に出来るほど実用化されていますが(健康保険では出来ません)、その検査では、たった5 ml の血液の中に、一個だけではなく、何個、何十個も発見されます。人間の血液は、日本人で概ね4000~5000 ml ありますから、理論上はその1000倍近くのガン細胞が、体中を駆け巡っていることになります。
実際には、患者さんの免疫力や、ガン細胞が上手く他の臓器に根付く(生着する)能力などの関係で、流れているガン細胞の0.1~1%程度しか、あるいはそれ以下しか、転移・再発は成立しないと考えられています。
しかし、一個だけ生着するとは非常に考えにくいことは事実です。
従って、例えば肺に一個だけ転移・再発が発見されても、その影には、無数の再発予備軍が、いまだ見えない状態で隠されていると考えなければなりません。
それは、はじめに発見された肺だけではなく、全身のいたるところに可能性があります。
汚い例えですが、「ゴキブリを一匹発見したら、その家の何処かに何十匹も潜んでいる」と考えなければならない。と言うのと同じです。
だから、痛い思いをして、大切な身体にダメージを与えて、手術という方法で、ゴキブリを一匹捕まえて殺しても、必ず潜んでいる仲間が次々と登場すると考えなければならないのです。
さらにそのダメージが引き金になって、大量のゴキブリの発生を見ることもあります。
但し、現在大腸ガンの肺転移などでは、その転移ガンが簡単に切除できる状態であれば、手術を行って切除し、その後再び出てきたら切除を繰り返す方が、手術をしないよりは長生きできるというデータも出てきています。
これは、身体に負担の少ない内視鏡を用いた手術法の普及によるところも大きいと思います。
また大腸ガンの肝臓転移に対しても、手術を行なった方が得な症例、逆に手術はしないほうが長生きできる症例が、分析されはじめています。
医学は常に進歩しています。昨年まで正しかったことが、今は間違いであるということも珍しくはありません。
ガンという病気に対して、可能な限りの最新の情報を仕入れて、
誤解を解いて、正しく理解されて、
ご自身の病気に対する最善の対策を考えて下さい。
以上 文責 梅澤 充