昨日の「医者一人、患者何人?」および
8月10日の「抗癌剤治療の費用」に関連した、
何通かの直接のメールと、コメントを頂いております。
やはり、「薬価(クスリの値段)が高すぎる」と感じている患者さんは多いようです。
当然だと思います。
イレッサ単独で一月20万円以上。
ハーセプチンも単独でも30万円以上します、
その他の一般的な抗癌剤もとても高価です。
勿論、保険適応ですからその金額の何割かの負担になるのですが、
それでもけっして少ない額ではありません。
アバスチン、ターセバが出てきたらどうなるのでしょうか。
しかし、製薬会社が大儲けをしているかというと、必ずしもそうではないようです。
抗癌剤を製造販売しているような製薬会社は何処も少なからず利益は上げていますが、
リストラも進めています。
ある製薬会社で私の親しい幹部職員は、
職員のリストラを担当させられ(首切り担当です)
「何故、罪も落ち度も無い職員を会社の利益のために
辞めさせなければならないのか。
自分が代わりに辞めたいくらいだ。」
と、本当に悩んでいました。
製薬会社もラクではないようです。
クスリはその開発のために莫大な費用がかかります。
何百億円という巨費が必要になります。
さらに、それだけの巨費を投じた挙句、
世に出せないクスリもたくさんあります。
めでたく世に出すことができれば、
その先行投資した費用を回収するためにそのクスリを販売します。
その時、そのクスリの値段、薬価は厚生労働省が決めます。
巨額の投資の割りに、消費者が少ないようなクスリでは、
薬価は高く設定されます。
逆に、高血圧の降圧剤や胃薬のように、
たくさんの消費が予想されるクスリでは薬価は低く抑えられます。
「エビスタ」というクスリが先月新聞に登場していましたが、
そのクスリは、「本来乳ガンの発生予防薬」として開発されました。
すなわち、乳ガンの発生確率の高い人(今は乳ガン患者さんではない)を対象に、
「乳ガンの発生確率を抑える」というクスリです。
クスリが世に出てくるには、
大規模な治験が必用です。
当然そのクスリも治験がはじまりました。
5年以内に乳ガンが発生する確率が高いと予想される人々を20000人集め
2つのグループに分け、
1つのグループでは、そのクスリを飲み、
もう1つのグループでは乳ガンの発生予防効果の確立されているノルバデックスを
飲みました。
それで、どれだけ発生確率が違うかの確認作業を始めました。
しかし、飲み始めてすぐに結果が出ることはありません。
また、すぐに20000人もの対象者は出ません。
何年もかけてそれだけの数を集めました。
そして、両グループともに5年間も飲み続けました。
その結果、ノルバデックスと同等の乳ガン発生予防効果があることが判明しました。
しかし、その発生予防効果を確認する治験を行っているときに、
骨粗鬆症に対して非常に有効であることが判明したため、
その治験を行いました。
そのデータを出すのは5年間も必要ありません。
骨粗鬆症の患者さんはいくらでもいますから、
その患者さんを集めて2つのグループに分け、
何ヶ月か飲んでもらうだけで結果は出ます。
見事に、有効であるというデータが出ました。
その結果、エビスタは乳ガンの発生予防薬ではなく、
骨粗鬆症の治療薬として販売されました。
「乳ガンの発生確率の高い人」より、
「骨粗鬆症の患者さん」の方が遥かにたくさん存在します。
したがって、薬価はかなり安く抑えられました。
発生予防に対してノルバデックスと同等であるのに、
ノルバデックスより遥かに安くなりました。
乳ガン手術後の患者さんは、手術側の乳ガンは完治していても、
反対側への新たな乳ガンの発生確率は低くありませんから、
現在私は、エビスタは、
乳ガン術後で再発予防治療の必要なくなった患者さんに、
乳ガンの発生予防効果を期待して処方していますが、
はじめから乳ガン発生予防薬として、
高い薬価で発売されていたら、今みたいに安易に処方はできません。
このように、患者ニーズの高いクスリは安くなり、
需要の少ないクスリは高くなります。
一般にガンに対して使うクスリは、
他のクスリと比較するとその需要は遥かに低くなります。
高血圧のクスリや胃薬では、
それを必用とする患者さんの絶対数も多いですが、
20年も30年も飲み続ける患者さんも珍しくありません。
しかし、イレッサを10年飲む患者さんはいません。
かくして、ガン治療薬は高いという構図が出来上がります。
何十年も使い続けることができる抗癌剤ができれば、
その薬価は下がります・・・・
この構図は、標準的抗癌剤治療と
休眠療法のような標準的ではない抗癌剤治療の関係によく似ています。
標準的抗癌剤治療では、
4月18日に「最大耐用容量と最大持続可能量」で説明した
最大耐用容量という大量の抗癌剤を使います。
したがって一回の治療における薬価は非常に高額になります。
しかし、その治療を長く続けることができる患者さんはほとんど存在しません。
標準的な回数でお終いです。
それに対して、必要最小限の最大持続可能容量で治療を行う
標準的ではない抗癌剤治療では、
1回あたりの薬価は低くなります。
しかし、長~く使い続けますので、
総使用量では同じかむしろ多くなります。
製薬会社としては、その方が儲かります。
しかし、この場合は、薬価を決めるのは厚生労働省ではなく、
患者さん自身です。
「高く短く」がイイか、
「安く長く」を望まれるかゆっくりお考え下さい。
本日は「高い薬価」を実感されている患者さんからの、
隠れコメントや直接のメールを頂きましたので、
それについて書きました。
以上 文責 梅澤 充
8月10日の「抗癌剤治療の費用」に関連した、
何通かの直接のメールと、コメントを頂いております。
やはり、「薬価(クスリの値段)が高すぎる」と感じている患者さんは多いようです。
当然だと思います。
イレッサ単独で一月20万円以上。
ハーセプチンも単独でも30万円以上します、
その他の一般的な抗癌剤もとても高価です。
勿論、保険適応ですからその金額の何割かの負担になるのですが、
それでもけっして少ない額ではありません。
アバスチン、ターセバが出てきたらどうなるのでしょうか。
しかし、製薬会社が大儲けをしているかというと、必ずしもそうではないようです。
抗癌剤を製造販売しているような製薬会社は何処も少なからず利益は上げていますが、
リストラも進めています。
ある製薬会社で私の親しい幹部職員は、
職員のリストラを担当させられ(首切り担当です)
「何故、罪も落ち度も無い職員を会社の利益のために
辞めさせなければならないのか。
自分が代わりに辞めたいくらいだ。」
と、本当に悩んでいました。
製薬会社もラクではないようです。
クスリはその開発のために莫大な費用がかかります。
何百億円という巨費が必要になります。
さらに、それだけの巨費を投じた挙句、
世に出せないクスリもたくさんあります。
めでたく世に出すことができれば、
その先行投資した費用を回収するためにそのクスリを販売します。
その時、そのクスリの値段、薬価は厚生労働省が決めます。
巨額の投資の割りに、消費者が少ないようなクスリでは、
薬価は高く設定されます。
逆に、高血圧の降圧剤や胃薬のように、
たくさんの消費が予想されるクスリでは薬価は低く抑えられます。
「エビスタ」というクスリが先月新聞に登場していましたが、
そのクスリは、「本来乳ガンの発生予防薬」として開発されました。
すなわち、乳ガンの発生確率の高い人(今は乳ガン患者さんではない)を対象に、
「乳ガンの発生確率を抑える」というクスリです。
クスリが世に出てくるには、
大規模な治験が必用です。
当然そのクスリも治験がはじまりました。
5年以内に乳ガンが発生する確率が高いと予想される人々を20000人集め
2つのグループに分け、
1つのグループでは、そのクスリを飲み、
もう1つのグループでは乳ガンの発生予防効果の確立されているノルバデックスを
飲みました。
それで、どれだけ発生確率が違うかの確認作業を始めました。
しかし、飲み始めてすぐに結果が出ることはありません。
また、すぐに20000人もの対象者は出ません。
何年もかけてそれだけの数を集めました。
そして、両グループともに5年間も飲み続けました。
その結果、ノルバデックスと同等の乳ガン発生予防効果があることが判明しました。
しかし、その発生予防効果を確認する治験を行っているときに、
骨粗鬆症に対して非常に有効であることが判明したため、
その治験を行いました。
そのデータを出すのは5年間も必要ありません。
骨粗鬆症の患者さんはいくらでもいますから、
その患者さんを集めて2つのグループに分け、
何ヶ月か飲んでもらうだけで結果は出ます。
見事に、有効であるというデータが出ました。
その結果、エビスタは乳ガンの発生予防薬ではなく、
骨粗鬆症の治療薬として販売されました。
「乳ガンの発生確率の高い人」より、
「骨粗鬆症の患者さん」の方が遥かにたくさん存在します。
したがって、薬価はかなり安く抑えられました。
発生予防に対してノルバデックスと同等であるのに、
ノルバデックスより遥かに安くなりました。
乳ガン手術後の患者さんは、手術側の乳ガンは完治していても、
反対側への新たな乳ガンの発生確率は低くありませんから、
現在私は、エビスタは、
乳ガン術後で再発予防治療の必要なくなった患者さんに、
乳ガンの発生予防効果を期待して処方していますが、
はじめから乳ガン発生予防薬として、
高い薬価で発売されていたら、今みたいに安易に処方はできません。
このように、患者ニーズの高いクスリは安くなり、
需要の少ないクスリは高くなります。
一般にガンに対して使うクスリは、
他のクスリと比較するとその需要は遥かに低くなります。
高血圧のクスリや胃薬では、
それを必用とする患者さんの絶対数も多いですが、
20年も30年も飲み続ける患者さんも珍しくありません。
しかし、イレッサを10年飲む患者さんはいません。
かくして、ガン治療薬は高いという構図が出来上がります。
何十年も使い続けることができる抗癌剤ができれば、
その薬価は下がります・・・・
この構図は、標準的抗癌剤治療と
休眠療法のような標準的ではない抗癌剤治療の関係によく似ています。
標準的抗癌剤治療では、
4月18日に「最大耐用容量と最大持続可能量」で説明した
最大耐用容量という大量の抗癌剤を使います。
したがって一回の治療における薬価は非常に高額になります。
しかし、その治療を長く続けることができる患者さんはほとんど存在しません。
標準的な回数でお終いです。
それに対して、必要最小限の最大持続可能容量で治療を行う
標準的ではない抗癌剤治療では、
1回あたりの薬価は低くなります。
しかし、長~く使い続けますので、
総使用量では同じかむしろ多くなります。
製薬会社としては、その方が儲かります。
しかし、この場合は、薬価を決めるのは厚生労働省ではなく、
患者さん自身です。
「高く短く」がイイか、
「安く長く」を望まれるかゆっくりお考え下さい。
本日は「高い薬価」を実感されている患者さんからの、
隠れコメントや直接のメールを頂きましたので、
それについて書きました。
以上 文責 梅澤 充