とても重いコメントを頂きました。
そのコメントを読まれた患者さんは、
昨年5月に放送されたNHKのガン特集番組と同様に、
大きな誤解をされてしまう恐れがありますので、
間違っている点は、正させて頂きます。
従って、本日は、先日の「エビデンスが無いときは?」の、
続きを書く予定だったのですが、予定を変更させて頂きます。
しかし、このブログを始めてから、初めて翌日の予告をしたその時に、
その予告を変更せざるを得ないのは、なんとも皮肉な話しです。
そのコメントは、
2006-02-17 金 02:19:01 /URL /化学療法マニア さんから頂いたものです。
判り易いように、分解して、そのまま引用して、本文に提示しますが、
全文続けて読みたい方は、左端の「最近のコメント」の欄の
「化学療法マニア:インフォームドコンセント(02/17)」
をクリックして、ご覧下さい。
コメントの内容を見ますと、“化学療法マニアさん”とは、
NHKのガン特集番組の製作スタッフのお1人だろと推察します。
あるいは、NHKに洗脳されてしまったお気の毒な方かもしれません。
本日は、そのNHKのスタッフと思われる方に対するお答えという形で書きます。
確かに、再発・進行非小細胞肺がん、膵がんなどなどでは、先生の言われる十分な延命効果は認められていないのは事実であると思います。
わずかな延命しか得られないガンは、他にもたくさんあります。しかし、僅かというのは、何度もこのブログでも書いているとおり、
私の価値観であり、それを私の診ている患者さんや、他の人に、化学療法マニアさんに、
強要するものではありません。
生命に対する価値観・死生観は、千差万別です。
しかし、本記事では(その他全体の記事を合わせれば抗がん剤が全く無駄ではないと理解できる部分もありますが)、そのような特定のがん種が表記されていないため、がんの化学療法自体が延命のないものと受け取れます。
1月14日の「理想的なガン治療を受けるために」は、お読み頂いていないようですね。先ずは、それを是非お読み下さい。
一連の当ブログでは、「がんの化学療法自体が延命のないもの」などとは、
一言も書いていません。
「十数年前までは、副作用だけは立派だが、延命効果すらなかった」という、
趣旨の事実は書きました。
「現在では、多くのガンで数ヶ月の延命が可能になった。」
と何回も何回も何回もしつこいほど書いています。
何処の部分をどのように読むと「延命のないもの」と受け取れるのでしょうか。
教えて下さい。
私の書き方が悪いのであればお詫びして改めさせて頂きます。
必ずやお教え頂きたくお願い申し上げます。
例えば、抗がん剤治療を控えた精巣腫瘍の患者さんがこの記事だけを見て、抗がん剤治療を拒否したらどうなるでしょう。精巣腫瘍の標準的治療(BEPなど)を受ければintermidiate以上のリスクの患者さんでも5年生存率は90%以上です。受けない場合は、まず1年程度の余命でしょう。悪性リンパ腫の患者さんはどうでしょうか?
精巣ガン、悪性リンパ腫については、1月14日の「理想的なガン治療を受けるために」で、何と書かれているかご確認下さい。
また、化学療法マニアさんが、いくらそれを読んでいないからといって、
随分と飛躍した「例えば」ですね。
言いがかりですか?
この、2月5日の「インフォームドコンセント」だけを読んで、
抗癌剤治療を拒否する精巣ガン、悪性リンパ腫の患者さんなど、
この世に存在するのでしょうか???
精巣ガンや悪性リンパ腫は、非常に化学療法の治療効果の高いガン(悪性腫瘍)です。
それこそ、治る可能性も十分にあるのです。
精巣ガン、悪性リンパ腫の患者さんは、主治医からそのことを、
十分に説明されているからこそ、
辛くてもその治療を受けようと決意されたのではないでしょうか。
数少ない治療効果の大きい化学療法は、
腫瘍内科医の先生方は、ここぞとばかりに、しっかりと説明されます。
まったく延命効果のなかったかつての抗癌剤治療ですら、
うま~く、患者さんに説明をして、治療を始めていたのですから・・・・
そのことを説明しないで、いきなり抗癌剤治療(化学療法)を始める医者など、
日本にいるのですか?
もしご存知なら、是非ご紹介下さい。
一度お会いしたいと思います。
ちなみに、その1月14日のブログで、私は、
(白血病や悪性リンパ腫、精巣ガンなどでは、完治もあります。また、放射線治療で完治するケースも存在します。)
と書きました。ご確認下さい。もし、自分の病気と同一の病名が書かれていれば、
それを見た患者さんは、他の文章などすべて忘れて、
「完治」という二文字だけは、目に焼き付いているはずです。
そして、その方法へひた走るはずです。
まして、このブログはご指摘どおり、
毎日ガン患者さんを診ている、影響力の大きい医師が書いています。
その医者が、大きな救いの言葉(事実です)を書いているのですから、
患者さんは、非常に大きな安堵を得られているはずです。
患者さんの心理とは、その様なものではないでしょうか。
だから、患者さんが安心する言葉を巧みに操る、
アガリクスや巷のインチキ免疫治療クリニックなどが、
繁盛するのではないでしょうか。
患者さんは「ガンが治る」とだまされて・・・・
更に、この記事では再発・進行の癌か、術後補助療法が必要な癌かの区別がありません。卵巣がん術後の化学療法の予定の患者さんがこの記事で拒否されたらどうなるでしょうか?標準的治療での5年生存率は50%に届こうとしています。Stage III/IVの卵巣がん患者さん(卵巣がんの多くがStage III/IVです)は、無治療であれば1年以内に90%程度の患者さんが亡くなります。1960年代の治療成績です。乳がんリンパ節転移陽性例の患者さんはどうでしょう。標準治療が広く使用されてきた欧米では乳がんの死亡率は低下しています(Dr.Petoのデータ)。先進国中で死亡率が増加しているのは、一般の外科医が化学療法を受け持つ事が多い日本だけです。
2月5日の「インフォームドコンセント」だけを読んで、抗癌剤治療を拒否する卵巣ガンの患者さんなど、
この世に存在するのでしょうか???
患者さんは、主治医から、化学療法マニアさんの説明以上に詳しく、
治療内容、生存期間を聞かされて、
辛くてもその治療を受けようと決意されたのではないでしょうか。
先程も言いましたが、治療成績がイイ化学療法については、
腫瘍内科の先生は、胸を張って説明されますから・・・
卵巣ガンは、多くの場合婦人科医が治療しますが・・・
ちなみに、
1月16日の「ガン医療の現場で使われる言葉 エビデンスEBM(2)」の中の、
「エビデンスなんて不要?」
「重要な従うべきエビデンス」において、私は、
また、たったの「○○ヶ月」と何度も書きましたが、"たった"でも○○ヶ月延命が可能であることは、それこそエビデンスであり"事実"です。"たった"と書いたのは、私の価値観であり、それを強要するつもりは毛頭ありません。
・・・・中略・・・・
このエビデンスは、統計学的にAという治療より、Bという治療を行った場合の方が、再発率が低い、すなわち「天寿を全うする確率が高くなる」というエビデンスですから、是非それには従うべきであると考えます。
明らかに再発確率が減っていることが証明されていますので、その治療は受けた方が得策です。たとえ副作用が辛くても、そのご褒美として根治の確率が高くなるのですから、それは我慢するべきだと考えます。
また、白血病や悪性リンパ腫などでは、抗癌剤治療だけでそれらが完治する、すなわちその病気から完全に離脱して、天寿を全うできる可能性が低くありませんから、多少辛い副作用があっても、是非エビデンスに従い、治療を受けるべきだと思います。
・・・・中略・・・・
抗癌剤治療のエビデンスも、本来患者さんの判断に任せられるべきですが、何故か直接命に結びつく重要なエビデンスは、日本では「お医者様のもの」だけになっています。
あらゆる手段を使い、そのエビデンスの実際を知って、それに従うか否かを、是非とも患者さんご自身でお考えになって下さい。
乳がんリンパ節転移陽性例の患者さんはどうでしょう。
に対する回答は、「天寿を全うする確率が高くなる」というエビデンスですから、是非それには従うべき
とすでに書いてあります。また、
標準治療が広く使用されてきた欧米では乳がんの死亡率は低下しています(Dr.Petoのデータ)。先進国中で死亡率が増加しているのは、一般の外科医が化学療法を受け持つ事が多い日本だけです。
このクダリは、まさにNHKの主張そのものですね。
昨年の5月に放送した内容そのままです。
どうしても、NHKは腫瘍内科医に標準的抗癌剤治療をして欲しいようですね。
この放送の内容、余りにも露骨な詭弁については、昨年の放送の後に、
臨床医の会(略称:臨床医ネット)から、
文書で抗議を受けたはずですが、お忘れになられているのでしょうか。
新聞にも大きく出ていました。
「患者とともに納得の医療を目指す臨床医の会のホームページにようこそ!」http://literacy.umin.jp/frame5.htmをもう一度ご覧下さい。
確かに、日本で乳ガンの死亡率は増加しています。
しかし、それより凄まじく速いスピードで乳ガンの発生率が増大しています。
最大の原因は、食の欧米化によるものと考えられています。
従って、乳ガンの死亡率が上昇するのは当然です。
タバコを吸う人口が増えれば肺ガンの死亡率が増加するのと同じです。
一方、欧米では、ガンの治療よりもむしろ、
ガンの発生予防、さらに早期発見に努力しています。
その結果、欧米では乳ガンの死亡率は低下してきています。
私は、1987年から1989年までの2年間シカゴの病院に勤務しましたが、その当時(昭和)から、シカゴの街中また地下鉄の中では、そこらじゅうに
「マンモグラフィーを受けましょう」という、宣伝がベタベタ貼られていました。
日本で、検診にマンモグラフィーを積極的に取り入れ始めたのは、ここ一二年ではないでしょうか。
再発を来たした乳ガン患者さんの死亡確率は、全世界同一です。
死亡に至るまでの時間が多少違うだけです。
ちなみに、NHKご推奨の腫瘍内科医だけが、標準的抗癌剤治療で再発乳ガンを診ている某がんセンターでは、生存期間中央値を28ヶ月と論文で報告しています。
化学療法マニアさんは、余程外科医がお嫌いの様ですが、
私は外科医です。
その私の診ている患者さんではその数字は50ヶ月を楽に越えています。
(現在はまだ半分以上の患者さんが元気ですから正確な生存期間中央値は出せません)
私は、再発乳ガンに対しは、標準的抗癌剤治療は一切行なっていません。
他のほとんどのガンもそうですが、私は、標準的抗癌剤治療を散々行なって、その治療効果を見てきた結果、それを繰り返すつもりはありません。
ガンの縮小は考えずに、辛い思いをすることなく、長生きすることだけを考えて治療しています。
大学病院やがんセンターで、NHKおよび化学療法マニアさんが大のお気に入りである腫瘍内科医が、「余命あと○ヶ月。ほかに治療方法はありません。」と冷たく言い放った患者さんを、バカな外科医である私が診ています。
3ヶ月と言われ6年目を迎える患者さんや、
膵ガンでジェムザールが効かなくなりもうダメといわれ、すでに1年になる患者さんなど、たくさんおられますよ。
私は、身内のガンは絶対に腫瘍内科医には診させません。
なお、アメリカ最大のがん治療拠点病院である、MCアンダーソンがんセンターよりも、
日本のほとんどの地方のがんセンターの方が、再発乳ガンの10年生存率において勝っていますよ。
何故、NHKは「日本のガン治療が遅れている」ことにしたいのか理解に苦しみます。
近隣周辺国に対して、「日本が悪者にならなければいけない」と常に卑屈になっていることが美徳であるかの様な錯覚に陥っている“進歩的文化人”と同様の考え方ですね。
しかし、そのNHKの露骨な詭弁を信じてしまった患者さんは、どのように思うでしょうか。
「不幸にも日本でしか治療を受けられないから長生きできない」と、とんでもない勘違いをしてしまいます。
そう勘違いしてしまうだけでも、その患者さんは不幸になります。
また、化学療法が効きにくい癌種・再発/進行例での延命効果がわずかな事は事実で先生のおっしゃる事はその通りです。しかし、もし僅かな延命であっても、苦しい治療であっても、それを理解したなら選択するのは、患者ではないかと思います。結婚式を控えた娘の進行大腸がんの父親は僅かでも長生きしたいと思うのではと思います。私の父もそうでした。
何度も言うとおりに、治療を選択する権利があるのは、患者さんだけです。問題は、治療を選択するための、正確な情報が提示されていないことです。
インフォームドコンセントなどと立派なお題目を唱えておられる先生方も、
多くの場合、一番肝心な情報を患者さんに提供していないのです。
従って、このブログも正確な情報収集の一助になればと思い毎日綴っているのです。
お父様は、お気の毒でしたが、ご自身の意志で、
延命効果の大きくは無い辛い治療をお受けになられたのであれば、
その選択はそれで間違いではないと思いますし、それに反論する気は毛頭ありません。
生意気を申しましたが、医師が買いsつするブログでその影響も大きいと思います。このような記事の場合には、がん種を特定する、そのがんのStatus(術後か、再発進行かなど)を示される事を希望致します。
申し分けありませんが、ご希望には沿う気はありません。少なくとも、現在の私のブログで、迷惑がかかる患者さんはいないと信じています。
興味を持って、読んで頂ける患者さんであれば、始めの頃のアーカイブスから、読まれれば、私がどのような患者さんについて書いているのかは、がん種を特定する、Status(術後か、再発進行かなど)を示す必要もなく、ご理解頂けるものと信じています。
私は、現役の臨床医として働いております。
1年365日のうち、丸一日休める日など、ほとんど無い忙しさです。
年末年始は1日だけ休みました。夏休みも同様です。
その中で、このブログを綴るだけでもかなりの労力です。
これ以上に手間をかけるとつもりはありません。
本日は、予定を変更して、NHKスタッフと思われる化学療法マニアさんに対する返事を書きました。
長くなってしまいました。
しかし、見過ごすことができない内容であり、
あのコメントを信用した患者さんが不幸になってしまう可能性がありましたので、
十分に説明しました。
今回の化学療法マニアさんのコメントおよび、
私のブログの内容に関しまして、
どしどしご意見を頂ければ幸いです。
メールアドレスはアーカイブスのはじめにも書いてあります。
ブログ上では言い難ければ、上記アドレスまでダイレクトメールでもかまいません。
以上 文責 梅澤 充