本日、「朝ご飯は食べないから、クスリは飲んでいません。」
と患者さんに言われました。
それまでは、朝昼夜としっかり、抗癌剤を飲まれていたのですが、
突然飲まなくなってしまいました。
その訳を聞いてみると、
私も見たことがある、テレビの健康番組というより、
視聴者の恐怖心を駆り立てる「脅し番組」とでもいうべき、
民放の愚かな番組を見た影響でした。
患者さんから伺った内容から、
「血液をサラサラにするクスリ(抗凝固剤)を、
朝ご飯を食べないで飲んでいたため、吐血をして倒れた人が紹介されていた。」
そうで、その患者さん曰く、
「私の場合は抗癌剤でもっと強いから、ご飯を食べないでそれを飲んで、
血を吐くのはイヤだ。」
ということで、自己判断で抗癌剤を止めてしまっていました。
それは、とんでもない誤解です。
先ず、テレビ番組の内容から説明すると、
アスピリンは抗凝固剤としても使われますが、本来消炎鎮痛剤です。
確かに、一般的な消炎鎮痛剤の副作用として、必ず胃粘膜障害があります。
アスピリンなどの消炎鎮痛剤、抗凝固剤は、胃の粘膜を傷害し、
胃潰瘍などを形成し、そこから出血を来たす場合があります。
すなわち吐血を来たす恐れがあります。
従って、胃袋が空っぽの時に、それを飲むと、胃の粘膜に直接その薬剤が接触し、
胃の粘膜障害が高度に起こりそうな気がしてしまいます。
しかし、実際の消炎鎮痛剤による胃粘膜障害は、
薬剤の直接の粘膜接触により、引き起こされる障害は僅かであり、
その障害の主体は、
胃の粘膜で合成され、粘膜を保護しているプロスタグランジンという物質の
十分な合成を、消炎鎮痛剤の主成分が阻害することにより、
胃の粘膜が、自ら生成する胃酸による攻撃から、
保護できなくなり発生するものです。
従って、痛み止めを、飲み薬ではなく、
「肛門から挿入する座薬ならば、胃は大丈夫」と、
思われている患者さんをよく見ますが、
それは大きな誤解です。
座薬でも胃の粘膜は荒れます。
さて、その患者さんが飲んでいた、経口抗癌剤は、
3月5日の「効かない抗癌剤」(2)で書いたとおり、
胃の中では溶けないため胃の粘膜障害は非常に少なくなっています。
さらに、このクスリは、食事とは時間をおいて飲んでもらうクスリです。
処方する私が不注意だったのですが、一日3回と処方すると、
患者さんは、反射的に毎食後と判断されてしまったようです。
薬局でも、そのように指示されていたようでした。
不覚でした。
しかし、「アスピリンを空腹で飲んだことだけで、吐血をして、倒れる」
という、極めて稀な事実だけを取り上げ、
それが、すべてだと思わせるような放送は是非止めてもらいたいものです。
また、視聴者の方々も騙されないで下さい。
2月25日の「NHKのことをイロイロと書く理由」はじめ、
散々、当ブログでも書いてきましたが、
NHKのガン特集番組などがイイ例です。
見ている患者さんを不幸にするために製作されたのではないか、
と思われるほど、酷い内容の番組もあります。
テレビで放送されることがすべて正しいなどと、勘違いをされると、
酷い目に遭うこともあります。
また、患者さんが見たその民放の健康番組では、
ある抗菌剤を飲んで、低血糖発作で倒れた例も紹介され、
「抗菌剤もこんなに怖い」ということをアピールしていたようですが、
確かに、糖尿病の患者さんが内服するとそのような発作を誘発する可能性のある
抗菌剤も存在します。
そのクスリが発売された当初は、その副作用があまり知られていなかったため、
低血糖発作が頻発したという経緯はあります。
しかし、今では、それは医者の間では極めて有名な副作用であり、
それを処方する時には、普通はそのことについては十分に注意してから、
患者さんにお出ししますので、現在ではほとんど問題になりません。
すべてのクスリには副作用があります。
ビタミン剤とて副作用が報告されています。
その番組は、何を言いたかったのかは不明ですが、
副作用を、恐れていたならば、すべてのクスリが使えなくなります。
ただ、視聴者の恐怖心を煽りたかっただけでしょうか。
クスリを処方する時は、
医者は必ず副作用について考えます。
副作用と、そのクスリによる利益をどちらが大きいかを天秤にかけて、
その上で、処方が決まります。
ブレーキの踏み方を知らずに、アクセルを吹かす馬鹿な医者はいないはずです。
そもそも、すべての治療には、利点と欠点があります。
例えば、手術では、その操作だけで命を落とすことだってあります。
特に、ガンの手術の場合、ほとんどすべての手術で、死亡例の報告があります。
どんな手術でも、危険は必ずついてまわります。
一昔前まで、肝ガンの手術死亡率は5%を超えていました。
乳ガンなどではほぼ100%安全ですが、
その安全とされる乳ガンの手術ですら、
私は、20年ほど前に、動脈を縛った糸がハズレて、手術当日の晩に大出血を起こし、
肝を冷やしたことがあります。
それは、私の技量の問題でしょうが、
すべての外科医が私より技量が上だとは思いません。
私の技量は、中庸だと思っています。
半分の外科医は、私のようなヘマを仕出かす可能性を秘めているはずです。
秘めているではなく、すでに露見している場合も少なくないでしょう。
このように手術は、危険がイッパイです。
しかし、手術をしなかった場合は、ガンによる死亡率はほぼ100%です。
危険な目に遭った患者さんにだけ焦点を当て、
それについてだけ報道すれば、その治療は極めて恐ろしい、
絶対に受けるべきではない治療になってしまいます。
しかし、その治療を受けずに、悲惨な結末に至った患者さんだけを見せれば、
素晴らしい治療になります。
これは、インチキ健康食品や免疫治療クリニックの宣伝と同じです。
10000人の患者さんがインチキ免疫治療を受けて、
ほとんどすべての患者さんでは無効であっても、それを隠して、
たまたま効果のあった数人の患者さんだけをオモテに出せば、
そのインチキ免疫治療を、「素晴らしい免疫治療」に
仕立て上げることなど、詐欺師にとってはいとも容易いことです。
巷には、お財布の口だけを、ポッカリと大きく開けて、
宣伝に引っかかる患者さんを待っている、
癌ビジネスの悪徳商法を展開している輩が大勢います。
間も無く、患者説明会と称した「患者勧誘大集会」を企てている
某インチキ免疫治療クリニックもあるようです。
テレビ番組と同様に騙されないで下さい。
以上 文責 梅澤 充
と患者さんに言われました。
それまでは、朝昼夜としっかり、抗癌剤を飲まれていたのですが、
突然飲まなくなってしまいました。
その訳を聞いてみると、
私も見たことがある、テレビの健康番組というより、
視聴者の恐怖心を駆り立てる「脅し番組」とでもいうべき、
民放の愚かな番組を見た影響でした。
患者さんから伺った内容から、
「血液をサラサラにするクスリ(抗凝固剤)を、
朝ご飯を食べないで飲んでいたため、吐血をして倒れた人が紹介されていた。」
そうで、その患者さん曰く、
「私の場合は抗癌剤でもっと強いから、ご飯を食べないでそれを飲んで、
血を吐くのはイヤだ。」
ということで、自己判断で抗癌剤を止めてしまっていました。
それは、とんでもない誤解です。
先ず、テレビ番組の内容から説明すると、
アスピリンは抗凝固剤としても使われますが、本来消炎鎮痛剤です。
確かに、一般的な消炎鎮痛剤の副作用として、必ず胃粘膜障害があります。
アスピリンなどの消炎鎮痛剤、抗凝固剤は、胃の粘膜を傷害し、
胃潰瘍などを形成し、そこから出血を来たす場合があります。
すなわち吐血を来たす恐れがあります。
従って、胃袋が空っぽの時に、それを飲むと、胃の粘膜に直接その薬剤が接触し、
胃の粘膜障害が高度に起こりそうな気がしてしまいます。
しかし、実際の消炎鎮痛剤による胃粘膜障害は、
薬剤の直接の粘膜接触により、引き起こされる障害は僅かであり、
その障害の主体は、
胃の粘膜で合成され、粘膜を保護しているプロスタグランジンという物質の
十分な合成を、消炎鎮痛剤の主成分が阻害することにより、
胃の粘膜が、自ら生成する胃酸による攻撃から、
保護できなくなり発生するものです。
従って、痛み止めを、飲み薬ではなく、
「肛門から挿入する座薬ならば、胃は大丈夫」と、
思われている患者さんをよく見ますが、
それは大きな誤解です。
座薬でも胃の粘膜は荒れます。
さて、その患者さんが飲んでいた、経口抗癌剤は、
3月5日の「効かない抗癌剤」(2)で書いたとおり、
胃の中では溶けないため胃の粘膜障害は非常に少なくなっています。
さらに、このクスリは、食事とは時間をおいて飲んでもらうクスリです。
処方する私が不注意だったのですが、一日3回と処方すると、
患者さんは、反射的に毎食後と判断されてしまったようです。
薬局でも、そのように指示されていたようでした。
不覚でした。
しかし、「アスピリンを空腹で飲んだことだけで、吐血をして、倒れる」
という、極めて稀な事実だけを取り上げ、
それが、すべてだと思わせるような放送は是非止めてもらいたいものです。
また、視聴者の方々も騙されないで下さい。
2月25日の「NHKのことをイロイロと書く理由」はじめ、
散々、当ブログでも書いてきましたが、
NHKのガン特集番組などがイイ例です。
見ている患者さんを不幸にするために製作されたのではないか、
と思われるほど、酷い内容の番組もあります。
テレビで放送されることがすべて正しいなどと、勘違いをされると、
酷い目に遭うこともあります。
また、患者さんが見たその民放の健康番組では、
ある抗菌剤を飲んで、低血糖発作で倒れた例も紹介され、
「抗菌剤もこんなに怖い」ということをアピールしていたようですが、
確かに、糖尿病の患者さんが内服するとそのような発作を誘発する可能性のある
抗菌剤も存在します。
そのクスリが発売された当初は、その副作用があまり知られていなかったため、
低血糖発作が頻発したという経緯はあります。
しかし、今では、それは医者の間では極めて有名な副作用であり、
それを処方する時には、普通はそのことについては十分に注意してから、
患者さんにお出ししますので、現在ではほとんど問題になりません。
すべてのクスリには副作用があります。
ビタミン剤とて副作用が報告されています。
その番組は、何を言いたかったのかは不明ですが、
副作用を、恐れていたならば、すべてのクスリが使えなくなります。
ただ、視聴者の恐怖心を煽りたかっただけでしょうか。
クスリを処方する時は、
医者は必ず副作用について考えます。
副作用と、そのクスリによる利益をどちらが大きいかを天秤にかけて、
その上で、処方が決まります。
ブレーキの踏み方を知らずに、アクセルを吹かす馬鹿な医者はいないはずです。
そもそも、すべての治療には、利点と欠点があります。
例えば、手術では、その操作だけで命を落とすことだってあります。
特に、ガンの手術の場合、ほとんどすべての手術で、死亡例の報告があります。
どんな手術でも、危険は必ずついてまわります。
一昔前まで、肝ガンの手術死亡率は5%を超えていました。
乳ガンなどではほぼ100%安全ですが、
その安全とされる乳ガンの手術ですら、
私は、20年ほど前に、動脈を縛った糸がハズレて、手術当日の晩に大出血を起こし、
肝を冷やしたことがあります。
それは、私の技量の問題でしょうが、
すべての外科医が私より技量が上だとは思いません。
私の技量は、中庸だと思っています。
半分の外科医は、私のようなヘマを仕出かす可能性を秘めているはずです。
秘めているではなく、すでに露見している場合も少なくないでしょう。
このように手術は、危険がイッパイです。
しかし、手術をしなかった場合は、ガンによる死亡率はほぼ100%です。
危険な目に遭った患者さんにだけ焦点を当て、
それについてだけ報道すれば、その治療は極めて恐ろしい、
絶対に受けるべきではない治療になってしまいます。
しかし、その治療を受けずに、悲惨な結末に至った患者さんだけを見せれば、
素晴らしい治療になります。
これは、インチキ健康食品や免疫治療クリニックの宣伝と同じです。
10000人の患者さんがインチキ免疫治療を受けて、
ほとんどすべての患者さんでは無効であっても、それを隠して、
たまたま効果のあった数人の患者さんだけをオモテに出せば、
そのインチキ免疫治療を、「素晴らしい免疫治療」に
仕立て上げることなど、詐欺師にとってはいとも容易いことです。
巷には、お財布の口だけを、ポッカリと大きく開けて、
宣伝に引っかかる患者さんを待っている、
癌ビジネスの悪徳商法を展開している輩が大勢います。
間も無く、患者説明会と称した「患者勧誘大集会」を企てている
某インチキ免疫治療クリニックもあるようです。
テレビ番組と同様に騙されないで下さい。
以上 文責 梅澤 充